「富山湾の宝石」と呼ばれるシロエビ。その透明感あふれる薄ピンク色の美しさと、とろけるような甘みは、富山県を代表する海の幸として全国的に知られています。
しかし、2024年1月1日に発生した能登半島地震は、このシロエビ漁に過去最悪の打撃を与えました。この記事では、シロエビ漁獲量の約40年にわたる推移を振り返りながら、地震からの回復状況、そして2025年・2026年の最新見通しまでを詳しくお伝えします。
シロエビとは?|世界で唯一、富山湾だけで商業漁業が成立する理由
シロエビ(学名:Pasiphaea japonica)は、駿河湾や相模湾にも生息していますが、商業的な規模で漁業が成立しているのは世界中で富山湾のみです。
その理由は、富山湾特有の地形にあります。
「あいがめ」と呼ばれる海底谷の存在
富山湾は沿岸からわずか数キロメートルで水深1,000メートルを超える深海湾。神通川や庄川が形成した「あいがめ」と呼ばれる海底谷が、シロエビにとって最適な生息空間を提供しています。
シロエビは日中、水深150〜600メートルの深層に潜み、夜間にはプランクトンを追って上層へ垂直移動します。この「あいがめ」が移動の拠点となり、高密度な集群を形成するのです。
かつてシロエビは、駿河湾のサクラエビの代用として赤く着色されて出荷されたり、煮出し用の雑魚として扱われていたこともありました。しかし、冷凍技術の進歩により「一度凍結してから剥くと簡単にツルっと剥ける」という特性が活かされるようになり、人気が急上昇。現在では富山県の「県の魚」として指定されるまでになりました。
【図解】シロエビ漁獲量の長期推移(1985年〜2024年)

▲富山湾シロエビ漁獲量の推移(1985年〜2024年)|出典:富山県水産研究所データをもとに作成
第1期:統計開始〜低水準期(1985年〜1990年頃)
統計が始まった昭和60年代前半、シロエビの漁獲量は約200トン前後と低迷していました。乱獲や海洋環境の変化が重なり、資源の枯渇が危惧される事態に。この苦い経験が、後の資源管理体制構築のきっかけとなります。
第2期:回復・安定期(1990年代〜2000年代)
漁業者による自主的な資源管理の取り組みが功を奏し、漁獲量は徐々に回復。「プール制」と呼ばれる収入均等分配制度が定着し、無理な乱獲を避ける操業スタイルが確立されました。
平成10年(1998年)には500トン台を回復し、平成19年(2007年)前後には年間600トン以上のピークを記録しています。
第3期:漸減傾向(2010年代)
2008年以降、漁獲量は緩やかな減少傾向に転じました。
| 年 | 漁獲量(トン) | 備考 |
|---|---|---|
| 平成20年(2008) | 554 | 600トン割れ |
| 平成21年(2009) | 515 | |
| 平成22年(2010) | 593 | |
| 平成24年(2012) | 453 | 500トン割れ |
| 平成25年(2013) | 462 | |
| 平成26年(2014) | 451 |
この時期の減少要因としては、漁業構造の変化や海洋環境の変動が挙げられますが、シロエビ自体の資源状態は「現状維持」の範疇にあると評価されていました。
第4期:安定期から豊漁へ(2020年〜2023年)
| 年 | 漁獲量(トン) | 対前年比 |
|---|---|---|
| 2020年 | 約473 | 平年並み |
| 2021年 | 約440 | 減少 |
| 2022年 | 約449 | 横ばい |
| 2023年 | 551 | 豊漁 |
2023年は551トンと、近年では好調な年となりました。平年を上回る水準で、資源状態は良好と見られていたのです。
2024年:能登半島地震による観測史上最低の記録
しかし、2024年1月1日の能登半島地震は、この状況を一変させました。
漁獲量は前年の35%に激減
| 項目 | 2024年実績 | 前年(2023年) | 対前年比 |
|---|---|---|---|
| 全県累計漁獲量 | 193トン | 551トン | 35% |
| 平年比 | 37% | – | – |
193トンという数字は、1985年の統計開始以来、過去最低の記録です。
原因は「海底地すべり」
海上保安庁と富山県の調査により、地震による大規模な海底地すべりの発生が確認されました。
シロエビの主要漁場である「あいがめ」の斜面に堆積していた泥砂が崩落。シロエビを巻き込みながら深部へ流出したほか、大量の懸濁粒子がシロエビの鰓(えら)を閉塞させたと考えられています。
特に新湊漁港では、地震直後の3〜5月の漁獲量が前年比わずか32%に。漁師の松本隆司さんは「どれだけ頑張っても自然には勝てない」と肩を落としました。
月別推移:絶望から希望へ
興味深いのは、シーズン後半の急激な回復です。
- 4〜6月:前年同期の20%以下という壊滅的な数字
- 11月単月:38トンを記録(前年同月19トンの199%)
地震後に分散していた個体群が再集結したか、生き残った幼生が急速に成長したと考えられています。
2025年:回復傾向が鮮明に
2025年シーズンは、回復の兆しがはっきりと現れました。
月別漁獲量の推移
| 月 | 漁獲量(トン) | 平年比 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| 4〜7月 | 低調 | – | 地震の影響継続 |
| 8月 | 52 | 67% | 地震後最多 |
| 9月 | 好調 | 平年並み | 回復傾向 |
| 10月 | 56 | 107% | 今季初の平年超え |
| 11月 | 36 | 112% | 2ヶ月連続で平年超え |
シーズン累計
- 2025年4〜11月累計:277トン(平年比57%)
- 前年同期(2024年):193トン
- 対前年比:約44%増
富山県水産研究所の担当者は「今季の後半は盛り返してきていた。来季の豊漁に期待したい」とコメントしています。
2026年以降の見通し|平年並みへの回復に期待
県水産研究所の予測
2025年12月下旬までの累計データに基づく分析では:
- 2026年は前年比40%増の見込み
- 平年並み(400〜500トン台)への回復が視野に
シロエビの幼生は孵化から2〜3年で漁獲対象サイズに成長するため、地震直後に生き残った個体群が本格的に漁獲に加わるのは2026年以降と見られています。
回復を裏付ける調査結果
2025年夏に行われた国と県の合同調査では、新湊沖のシロエビ漁場付近で1時間に372個体を撮影。数はまだ少ないものの、一定の生息が確認されました。
一方で、ベニズワイガニの漁獲回復には9〜10年かかる見込みとされており、魚種によって回復のペースは大きく異なります。
シロエビ資源を守る「プール制」とは
富山湾のシロエビ漁が、限られた生息域と厳しい環境変化の中で存続し続けている最大の要因は、その高度に組織化された漁業管理体制にあります。
プール制(収入均等分配制度)の仕組み
新湊漁業協同組合の8隻のシロエビ漁船が運用する「プール制」は、個々の漁船の売上を競い合うのではなく、全船の総売上を一定のルールで分配する仕組みです。
3つのメリット:
- 過剰漁獲の自制:自分の船だけ多く獲っても収入に直結しないため、乱獲する動機がなくなる
- 経営の安定化:震災時のような局地的な不漁でも分配金で経営を維持できる
- 機動的な資源保護:稚魚混獲時には即座に臨時休漁を決定できる
輪番制と鮮度管理
8隻を4隻ずつ2班に分け、1日交代で出漁する輪番制を採用。漁場への負荷を半減させながら、市場価値の維持を図っています。
また、漁獲直後から船上で殺菌冷海水を掛け流す徹底した温度管理により、かつては地元でしか食べられなかったシロエビの全国配送が可能になりました。
この取り組みは、令和5年度の「浜の活力再生プラン」水産庁長官賞受賞や、国際的な「水産エコラベル(MEL)」取得という形で評価されています。
飲食店様へ|シロエビの仕入れについて
シロエビは、その希少性と美しさから、需給バランスによる価格変動が大きい食材です。
価格推移の傾向
- 2015年:北陸新幹線開業で全国的な人気に
- 2016年:魚価が10年前のほぼ2倍に高騰
- 2017年:一転して暴落(需要の飽和)
- 2024年:震災による供給減で再び高騰
- 2025年以降:回復傾向だが、平年より高値基調が続く見込み
仕入れのポイント
- 早めの確保:シーズン序盤(4〜5月)は漁獲が不安定なため、在庫がある時期に確保することをお勧めします
- 冷凍品の活用:鮮度管理された冷凍シロエビは、解凍後も十分な品質を保ちます
- 代替メニューの準備:不漁時に備えて、甘エビや他の北陸食材でカバーできるメニュー構成を
当店「居酒屋応援隊」では、富山湾のシロエビを小ロットから仕入れていただけます。在庫状況や価格についてはお気軽にお問い合わせください。
まとめ|「富山湾の宝石」の未来に期待
2024年の能登半島地震は、富山湾のシロエビ漁に観測史上最悪の打撃を与えました。しかし、2025年後半からの回復傾向は明確で、2026年には平年並みへの復帰が期待されています。
この回復を支えているのは、40年以上にわたって培われてきた資源管理の仕組みと、漁業者同士の強固な協力関係です。
「ボンボコ祭り」という、不漁の翌年にだけ行われる伝統行事が2025年に18年ぶりに開催されました。漁師の縄井雅英さんは「めでたい祭りではなく、複雑な気持ち」と語りましたが、その祈りは確実に届きつつあります。
シロエビ漁は、富山湾という天恵の地形、シロエビという類稀なる生物、そしてそれを守り抜く漁師という三者が揃って初めて成立する「奇跡の漁業」です。
私たち居酒屋応援隊も、この貴重な資源を大切にしながら、飲食店様への安定供給に努めてまいります。
【参考文献・出典】
- 富山県農林水産総合技術センター水産研究所「富山湾漁況・海況概報」
- 富山県「能登半島地震による水産資源への影響調査結果」(2025年3月)
- 新湊漁業協同組合「水産エコラベル(MEL)」認証資料
- 日刊水産経済新聞(2026年1月)
- 北國新聞、富山新聞各紙報道
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